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道場の日常! No.4

登場人物

ニコル


武井師範の旧友。

トナカイ


ひょんなことから武井道場にやってくることに。

サンタクロースがやってきた

By武井師範

「ねーケンタ、見て見て! 犬ひろったよ!」
「どこで拾っ……え、これ犬ぅ!?」
今日も元気な二人の声を聞きながら、師範は雪になりそうな灰色がかった空をのんびりと見上げた。
「あの、師範すいません……これって犬じゃないですよね?」
小林君の困った声に見てみると、犬くらいの大きさの茶色い動物がいた。
しっぽが短くて、耳と耳の間に二つ、妙な出っ張りがある。
「っていうか、これは……シカかな?」
「えーっ! 犬じゃないの!?」
「だから違うって!」

ピンポーン!

「あ、はい」
どんなときでも周りへの気配りを忘れない小林君が門へと駆けていく。
門が薄く開いた途端、小林君を吹き飛ばしながら背の高い男がとびこんできた。
「あ、あの、すいません! ここにトナカイ来てませんか!?」


突然やってきた男は、茶色い動物を見るなり「見つけた……」と、冷たい地面にへたり込んだ。
その向こうでは見事にしりもちをついた小林君が「なさけない…」とつぶやいている。
「とりあえず上がりませんか。ここ寒いでしょ」
「あ、ああ…申し訳ない」
声をかけると、顔を上げた男は、師範を見て目を丸くした。
「……あれ? 武井じゃないか!」
「え?」
師範は男の顔をまじまじと見た。濃い灰色の髪、こげ茶色の目。
自分と同年代くらいの、彫りの深い顔立ち。
「……もしかして、ニコル?」
「そうだよ。久しぶりだな。こんな所で会うとは思わなかった」
「高校以来か? 今、なにしてるんだ?」
なにげなく聞くと、二コルはふっと黙り込んだ。
「よくわからん」
「はあ?」

道場内の部屋に通して、温かいお茶を飲むうちにニコルはぽつぽつとしゃべり始めた。
「去年の冬に父が体調を崩してな、脱サラして後を継ぐことにしたんだ」
「そうなのか。って、ニコルの親父さんって……」
「サンタだ」
と、言ってニコルはお茶をあおった。
「サンタか、すごいじゃん。じゃあ、もうプレゼント配って回ったりしてるの?」
「全然。見習い中だからな。今の仕事は、トナカイの世話と、担当予定地区の下見くらいだよ」
「じゃあ、ここらの担当になるのか?」
「まだわからない……。今日だって散歩中にトナカイに逃げられるし、年下のサンタには怒られる。
本当に、なにひとつうまくいかない。
……一人前になれるかもあやしいよ」
ニコルはがっくりとうなだれた。
部屋の中が静かになると、きゃあきゃあとはしゃぐジャクリーヌと小林の声が聞こえてくる。
「楽しそうだな……。オレたちも昔はあんな感じだったっけ」
遠い目をするニコルに師範はいたずらっぽく笑いかける。
「もっとバカだったろ。夜中に学校のプールに忍び込もうとしたりさ」
「あったな。警備員のおやっさんに見つかって追いかけられた」
「逃げる途中で、だっさんが道まちがえて消えたりさあ!」
「なつかしいな。……そういえば、お前、映画監督になりたいって言ってたな」
「ああ……監督にはなれなかったけど、児童劇団に入って、文章書いて…。
なにかを伝えたい、っていう気持ちはずっと変わってないなあ」
劇を始めたときに、発声ができてなくて落ち込んだことや、バイトが見つからなくて一週間千円で暮らしたことを楽しそうに話す師範を見ながら、ニコルはふと思い出した。

——そうだ。オレは、いい顔で笑える大人になりたかったんだ。

「もうそろそろ行くよ。もっといろいろ勉強しないとな。……今日、会えてよかった」
来たときとはまったく違う、晴れやかな笑顔とともに、サンタ見習いはトナカイを連れて帰っていった。
「お、降り始めたな。今年はホワイトクリスマスか」
ひらりひらりと降る雪を見上げて、明日はみんなで雪合戦をしようと師範は思った。

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